ここではまずパニックから事故に繋がるまでの一例を取り上げ、考察と必要なスキルについて簡単に説明していきたいと思います。

 

『初めてのボートダイビンを行なうAという人物がいたとします。その人はまだ経験が浅いが、普段は冗談などを言って回りを笑わせたりするムードメーカーです。しかしこの日に限っては大人しく、他の人が話しかけるとそれに応える程度でした。ブリーフィングも終わり、ボートに乗り込んで暫く走った後ポイントに到着、インストラクターの指示のもと、それぞれがエントリーをして潜降します。もちろんAさんも皆と一緒に潜降をして、全員集まった所で水中ツアーを開始しました。この日は透明度も良く、遠くまで見渡せる気持ちの良い海況でした。そんな中でツアーを続けていると、突然大きな魚影が姿を表します。それはまだ遠くの方ですが、どうやらサメのようです。このポイントでは滅多に見られないことなので、インストラクター含めダイバーは大興奮。もっとよく見ようと近づいていこうとしますが、Aさんだけは違いました。その姿を見とめ、皆が先に進もうとした瞬間に凄い勢いでもがきながら浮上を始めたのです。インストラクターが止めに入るものの、我を失ったAさんはインストラクターまで押しのけて遂に水面まで出てしまいました』

 

この中に含まれるAさんから発信されているパニックの前兆を皆さんなら見抜けるでしょうか。この場合は普段のムードメーカーが一転、黙ってしまっているのがそれとなり、Aさんが何かしらのストレスを感じていると推測できます。ストレスが溜まっていくとそれが積み重なっていき、何らかのタイミングで爆発、パニックを起こしてしまうのです。

この場合は、Aさんはサメに出会うのではないかと恐れていました。スキューバダイビングを始めて間もない彼にとって、サメというのは命を脅かす恐ろしい魚だったのです。しかし実際に現れてしまった上、他のダイバーがそれに向かって泳ぎだしていくという、Aさんからしたら正気を疑うような皆の行動に、遂にストレスが爆発してしまいました。

結局それはAさん本人の口からではないと知りえないことなのですが、逆にいえば、ストレスを感じているのではないかと誰かが気付いた時点でその情報を引き出してさえいれば、何らかの対策は講じれた筈なのです。その方法と対策もレスキューコースで学ぶスキルのひとつになります。

これはあくまで一例ですのでとても分かりやすいものを選んでおりますが、実際の講習ではもっと踏み込んだものを学習するかと思います。このような事故を未然に防ぐためのフォローアップや、緊急浮上を行なった後の減圧症などの徴候、場合によっては必要となる心肺蘇生法のスキルなど、助ける為のテクニックはレスキューコースやレスキューを学ぶのに必須科目となるEFRというコースで習うことになります。